一冊の本を紹介いたします。
「大人になった虫とり少年」 編・著 宮沢輝夫 朝日新聞社刊
この本は、私どもの能楽の師匠が、2年に1度催している会に、毎回ご出演下さる、大蔵流狂言方、山本東次郎師が、人間国宝の指定を受けられたこの春、お祝い返しにいただいたものです。
エピローグによると、本書のもととなった連載は「大人になった虫捕り少年」のタイトルで読売新聞HPにアップされました。
2008年12月から・・・とあります。
そして、そのエピローグを書き始めたのが、2011年3月4日の夜。
書き上げた日付は2012年1月。
プロローグは、米国ミシガン州出身の詩人、アーサー・ビナード氏。
「<昆虫少年>のテーマでインタビューを申し込んだのは2011年2月下旬。取材は3月末。
結果として、3・11以降の昆虫と生態系、ひいては生物多様性を考える時、最も相応しい方から話を聴けたと思う。」
「ビナード氏は少年時代、父親を不慮の飛行機事故で亡くした経験を持ち、震災で家族を失った子供たちから目をそらせないと言います。」(259ページより引用)
小さな蝶や昆虫が震災後の日本に教えてくれる示唆に富んだ優れた著作といえましょう。
そして何よりも私から皆さまにお伝えしたいのは、以下のことです。
虫や蝶を追って野山を走り回った経験を共有する少年たちの間には、年齢も現状もワープした友情が通底している。ということです。
それは一瞬で芽生え、永遠に続きます。
この本に登場する著名人、北杜夫、養老孟司、福岡伸一、茂木健一郎、奥本大三郎、中村哲などの各氏が、その専門分野の場面では見せたことのない、生き生きとした表情で語っている姿は胸をうちます。
人は10歳までに心とからだに刻み込まれた感動を一生の宝とする。モンテッソーリ教育の原点に立ち戻る一冊です。
お教室の入口においてありますので、是非一度お手にとってごらんください。
私どもの教室から未来の虫とり少年少女が生まれていってくれたら、望外の喜びです。
2012年9月 堤 桃子